離婚は離婚届を提出すれば解決するわけではありません。子供がいれば親権をどちらが持つか決めなければ離婚届は受理されない決まりです。親権だけでなく養育費について決めることも必要です。離婚原因が浮気やモラルハラスメントであれば慰謝料の請求をすることもできます。夫婦であった期間に培った財産は二人の共有財産になりますから、財産分割もどうするか決めることも重要な問題になります。離婚問題は「お金の問題」という側面が強いのです。
世の中、お金の貸し借りで揉めたという話はとてもよくあることです。友人間で割り勘の金額で揉めたという話を耳にします。仲のよかった家族が借金問題で心がバラバラになってしまったという話もよくあります。そう、お金の問題は時に人間を変え、人間関係に大きな諍いをもたらしてしまうのです。離婚もお金の問題という側面が強いからこそ、離婚問題は泥沼化することがあります。
意識して冷静に話し合いに臨むことも重要ですが、特に大切なのは離婚にまつわるお金について知っておくことです。離婚問題は法律の問題でもあるからこそ専門家である弁護士に依頼することにはメリットがあります。弁護士に依頼するとしても、必要最低限の知識を頭に入れておくことによって有意義な相談ができるはずです。
離婚に関係するお金は4種類
離婚においてお金について話し合う機会は多いといえます。お互い十分な資産と収入があれば「いりません」と言ってさっさと離婚してしまうこともあるでしょう。しかし多くの人は離婚においてお金のことを気にします。子供がいれば、離婚しても子供を育てて行かなければいけないです。生活費も必要になります。離婚後のことを考えると、お金のことを抜きに離婚を決めることはできないのです。お互いが離婚に同意していたとしても、時にお金の話の決着がつかず、離婚が難航することがあります。まずは、離婚でどんなお金が問題になるのかその種類を知っておきましょう。
離婚に関するお金には「財産分与」「慰謝料」「養育費」「婚姻費用」があります。
これらは代表的な離婚に関するお金で、他にも、夫婦で所持する不動産や年金で揉めることもあります。ただ、年金には分割方法が定められていますし、不動産は財産分与や慰謝料の問題の中で一緒に話し合うことが多いです。この4種類が離婚で問題になるお金であると覚えておきましょう。
よく聞くワード慰謝料!他の費用とは何が違うの?
離婚のお金の問題の中でも、よく耳にするのは「慰謝料」の名前ではないでしょうか。ドラマのシナリオが離婚問題の時は、慰謝料を巡って争う夫婦が描かれることは決して珍しくありません。ドラマや本のテーマとしては遺産相続争いと同じくらい頻出かもしれません。
慰謝料とは、不貞行為やDVなど、夫婦の片方に離婚の原因がある場合に請求可能なお金です。慰謝料という漢字を見ると、「慰める」「謝る」「料金」という意味の字で構成されています。意味を考えると何となくわかるはずです。慰謝料は相手が有責である場合に請求できるお金なのです。お金とはいいますが支払いは現金だけでなく不動産などでも可能です。
財産分与とは、夫婦だった期間で共に培った財産を赤の他人になる二人がわけることです。たとえ夫の稼ぎだったとしても、妻の内助があったからこそ稼ぐことができたお金です。夫婦で頑張って手に入れたマイホームや、二人で一緒に貯めた預金などは夫婦の共有財産として分割の対象になります。必ずしも半分ずつわける必要はなく、夫が極めて高収入を得ているからという理由から妻に預金や不動産を全て分与することも許されます。離婚する夫婦の事情に合わせて財産をわけてくださいということです。夫婦共有の財産をわけることですから、夫婦の片方が有責でなくても財産分与の請求が可能です。
養育費も離婚問題でよく耳にする名前です。養育費は子供を育てるための費用ですから、子供のいない夫婦の離婚では問題になりません。たまに離婚後の生活費だと勘違いする人もいますが、養育費はあくまで子供のためのお金であり、離婚した元妻・元夫の生活費ではありません。主に親権を持たない側の親が支出という形で子供の扶養義務を果たすためのものです。子供のいる夫婦の離婚においてのみ問題になるお金であることを覚えておきましょう。
残りの一つは「婚姻費用」です。養育費や慰謝料に比べると知名度の低い名前かもしれません。
婚姻費用とはどんな費用?離婚の金銭問題
婚姻費用という言葉から結婚式の費用を連想してしまう人もいるようです。確かに漢字だけ見ると、勘違いしてしまいそうです。まぎらわしいですが、婚姻費用は結婚のための費用ではありません。結婚式の費用分担の話でもありません。
婚姻費用とは、配偶者や子供の生活費のことです。例えば夫が働き、妻が子育てと家事を担当していたとします。夫は自分が働いて得た給料だからと、お金を独り占めしてもいいわけではありません。子育てと家事をしている妻に対し、自分の分の生活費は自分で稼げというのも何かが違う気がします。夫婦はお互いを金銭的な面でも支える義務があります。子供を養育する義務もあります。結婚した以上、給料は自分だけのものではなく、家族全員で生きていくためのものなのです。
具体的には、夫が給料を生活費として渡してくれないのであれば「生活費(婚姻費用)を払ってください」と主張することができます。「自分が稼いだのだから自分だけのお金」は通用しません。夫と妻はお互いの稼ぎで扶養し合う義務があるのです。まさに、悩める時も健やかなる時も助け合いをするという精神です。
婚姻費用は結婚している限り必要な生活費です。ポイントは「結婚している限り」という部分です。別居していても、夫婦である限り支え合わなければいけません。つまり、先の例で考えれば、夫は妻と子供と別居していても、生活費の援助をしなければいけないのです。
婚姻費用の具体的な事例とは
「婚姻費用」は「生活費」と言われても、具体的にどんなものか掴み難いかもしれないです。なぜなら、生活費という言葉はとても広い範囲で使われるからです。
夫と別居している妻のケースで考えてみましょう。食費や水道料金、電気やガスの料金は生活費です。衣食住に関するお金や子供の学費も生活する上で必要なお金です。
ただ、妻が非常に浪費家で、化粧品に毎月多額のお金を使っているとしたら化粧品の購入代はどうでしょう。婚姻費用として片付けてしまっていいのでしょうか。毎月化粧品に多額のお金を使う人にとっては生活費かもしれません。判断が難しいところです。実は婚姻費用の範囲と額は厳密に決まっていません。
生活費という言葉は人によって「どこまでの範囲を指すのか」の解釈が違ってきます。生活費と言い切れば、どこまでも請求できると考える人がいるかもしれないです。婚姻費用は収入や各家庭の事情を考慮して決められるのが一般的です。生活費と言い切ればどこまでも請求が認められるというわけではありません。
たとえば専業主婦Aの夫Bの収入は月20万円だったとします。自身も働いて月10万円の所得を得ているCの夫Dは月給100万円だったとします。二つの夫婦では収入の状況がまったく異なっています。AとCがそれぞれ別居し、夫に婚姻費用を請求するとしたら、夫の所得も考慮しなければいけませんし、妻でありAとCの所得の有無も考慮することになります。各家庭の事情が異なるからこそ、婚姻費用は一律の額ではなく認められる範囲にも絶対的な決まりはありません。
婚姻費用は各家庭によって額が変わる可能性が高いです。ただし、目安が存在しないわけではありません。裁判所は婚姻費用の算定表を公開しています。年収や家族形態によって大体の婚姻費用の目安額が表によって算出できるようになっています。
婚姻費用は夫婦の話し合いで金額を決めます。話し合いで決まらなければどうやって決めるのか、という疑問については後ほどお答えします。
参照 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf
婚姻費用のモデルケース2つ
事例として、2つのケースをご紹介しましょう。
夫が給与で500万円の収入を得ており、10歳の子供がいるケースの婚姻費用はいくらになるでしょうか。裁判所の算定表を辿っていくと、4~6万円となっています。しかし、同じく500万円の所得を得ている自営業の父親の場合は、6~8万円となっています。婚姻費用を払う側が給与所得なのか、それとも自営業による所得なのかによっても金額目安は変わってきます。
今度は同じ500万円の収入を得ていて、18歳の子供が一人いるケースです。こちらはどうなるでしょうか。給与所得で500万円を得ている父親の婚姻費用目安額は6~8万円となっています。自営業で500万円の所得を得ている父親の婚姻費用目安額は10~12万円になっています。子供が18歳だと、ちょうど大学進学をする年齢です。裁判所の算定表でも教育費分が考慮されているといえます。
ただし、この婚姻費用算定表の金額が絶対ではありません。同じ給与所得の家であっても家庭ごとに事情が異なります。A家では年の給与所得が500万円で住宅ローンを支払っていることに対し、B家はローン返済一切なしでは、やはり事情が異なります。算定表はあくまで目安です。事情を考慮して金額が決められることになります。
参照 http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/santeihyo.pdf
話し合いで決まらなければどうするの?
婚姻費用が話し合いでまとまらない場合は調停で決めます。調停でも決まらなければ審判で決めることになります。
基本的に過去の分は請求できず、請求した時からの分を支払ってもらえます。別居していてまったく生活費を渡してくれない夫に対して「今までの分もまとめて払って」と請求しても、一般的に請求した時からの支払いになります。ただし、事情を考慮して過去分の婚姻費用の請求も認められる場合があります。離婚を前提として婚姻費用を請求したとして、夫が生活費をまったく家に入れていないということであれば「財産分与で共有財産を半分にするのは不公平」と妻側が主張するかもしれません。
基本的に過去の婚姻費用の請求は認められませんが、絶対というわけではなく、認められる場合や事情として考慮される場合があると覚えておくのがいいでしょう。
別居していなくても、夫がかなりの収入を得ているのに家にまったく生活費を入れていない等の事情があれば、同居中にも婚姻費用の請求が認められることがあります。やはり家庭ごとに事情がありますから、事情ごとに判断ということになります。
参照 http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_07_03/
まとめ
離婚に関係するお金には主に4つの種類があります。婚姻費用はその中の一つです。生活費のことを指します。離婚手続き中に別居しているという理由があっても婚姻費用の支払いは免れられません。夫婦であるということは助け合わなければならないということです。だからこそ別居中の配偶者に対しても婚姻費用の支払いが必要になります。
婚姻費用の額は裁判所で目安を公開していますが、絶対にこの金額を請求できるというわけではありません。調停で家庭事情を考慮した額を決めたとしても、支払いが絶対的に保障されるというわけでもありません。だからこそ、金額決定から支払いまでスムーズに進めるためにも弁護士にお願いするのが安全です。離婚問題を得意としている弁護士は、婚姻費用にも通じています。弁護士に相談し、離婚問題を一歩ずつ解決に近づけていくのがいいでしょう。