差押(強制執行)の申立てを行うために必要な書類は次の3つになります。
- 債務名義(公正証書・和解調書等)
- 強制執行認諾文言(執行文)
- 送達証明書
これは、いわゆる3点セットと呼ばれるもので、これらの書類がない限り強制執行を進めることはできないことを指します。そのため、自分の手元に3点セットの内、何があって何が無いのか、そして無い書類はどのように取得すればいいのかを、逐一チェックしながら検討してみて下さい。
強制執行に必要な書類を揃えて、強制執行の申立てを行う場合、相手の持っている財産について差押え等の手続きを行っていくこととなります。そのため、この差し押さえるべき財産を探すことが、養育費をきっちりと回収できるかどうかを決める大きな事情となります。
そして、一般的には差押えについては相手の金銭債権について行うことがセオリーといえます。というのも、金銭の場合は自分の口座に移すだけで完了しますが、差押えたものが相手の土地や家の場合は、競売にかけてその結果売れた金額について必要な養育費分回収するという方法になり、時間と手間がかかり迂遠となります。そのため、相手が金銭債権と不動産等を有している場合は、回収が簡単な金銭債権から先に攻めるようにしましょう。
ここでは、強制執行の申立てをする以前に、どのような財産から養育費を回収すべきかという、財産探しについてもう少し踏み込んで説明いたします。
差押えの申立てが裁判所に認められると、差押命令が差し押えられる第三者(会社等)に届きます。この差押命令の到達をもって、差押えは完了となるため、その後は実際に、差し押えた債権を自分に支払うよう取り立てることとなります。これに対して差し押えられた第三者が支払えば、養育費の回収として一先ずの決着となりますので、強制執行が完了したことを報告するために、取立届というものを裁判所に対して提出することとなります。これは、裁判所に対して強制執行が終了したことを報告するための届ですので、忘れないよう確実に提出するようにしましょう。
もっとも、差し押えられる会社が、自分の従業員を守る為に、差押命令に応じないこともありえます。この場合、会社の持っている別の債権を差し押えて養育費を回収するという取立訴訟(民事執行法157条)を提起することとなりますが、ここまでいくと、弁護士の介入なくして手続きを進めるのは困難ですので、自分単独で行うのではなく、法律専門家への相談をすることが好ましいといえます。
これまでの強制執行へ向けた解説の流れは、いずれも債務名義を有しているか、債務名義を得ることが確実な人へ向けた内容でした。もっとも、離婚において養育費について何ら取り決めをすることなく、端的に離婚届を記入して提出してそのままという方も多いと思います。仲違いによって離婚する場合等は、とにかく相手と離れたい一心で、養育費等の今後のことを話し合うことをしないまま離婚すると考えられるでしょうし、離婚の要求に対して、養育費を支払わなくて良いなら応じる等の対応をとられることもままありますので、養育費の取り決めをして、離婚協議書や公正証書を作成するというパターンはむしろ珍しいとも言えます。実際に、離婚の際に養育費の取り決めを行っている家庭は約40%程度となっており、実際に取り決めに従って養育費の支払いを受けている家庭はさらに少ない数となります。そのため、このような多くの人々が養育費について実際のやりとりをしていないという事情を持ち出して、養育費を払わないことを離婚時に断言されてしまったり、はなから養育親自身、養育費について諦めてしまっている結果、離婚時に養育費の取り決めを特にしないまま、事が進んで行ってしまうことも離婚の場面では充分あり得ます。
しかし、離婚時に養育費の取り決めをしていなくとも、離婚後の生活事情の変化や、子の成長の度合いに連れて、養育費を必要とせざるを得なくなった場合、養育費を支払ってもらうよう働きかけることが求められます。
確かに、離婚時に養育費について何ら取り決めをしていない、あるいは養育費を請求しないことを約束して離婚したような場合、養育親としては何とかご自身一人の力で子を育てて行きたいという思いが強いでしょうし、当時何ら取り決めをしなかったのに、後から養育費を求めることに違和感を感じる方もおられると思います。しかし、養育費というものは子が充実した生活を送るための、子の権利なわけですから、その権利を実現する必要が発生している以上、子を育てる親として、その権利の実現に向けた働きかけを行って行くことも親の責務といえます。また、事情の変化によって養育費が必要となっている以上、後から養育費を請求することに対してためらいを持つべきではなく、毅然とした態度で相手に対して接するべきともいえます。
本人同士の話し合いで解決しない場合には、家裁への申立てが必要になります。
実際に養育費を請求する場合、まずは当事者間での話し合いを進めることから始めます。やはり一度離婚時に取り決めなかったものを、後から求める以上は、相手の意見も反映させた丁寧な話し合いが求められますので、まずは、何故このタイミングで養育費を支払って欲しいと思ったのか、現在の子どもの状況はどうなっているのか、相手から子どもとの定期的な接触なども求められた場合に応じるつもりがあるのか等を深く考えながら、ある程度相手に寄り添う姿勢を見せた話し合いを進めましょう。
もっとも、話し合いがうまく進まなかったり、早期の段階で当事者間の険悪な対立が発生してきていると感じるような場合は、次の手段として養育費請求調停というものに、話し合いの場を移して行くことになります。