これまででは、最も一般的に利用されている公正証書作成に従って、養育費回収のための方法を解説してきました。しかし、離婚の形式には当事者で話し合って離婚する協議離婚以外にも多々ありますから、それぞれの離婚の場合、養育費を回収するにはどうしなければならないのかという点も検討しなければなりません。
もっとも、養育費を回収するための強制執行の方法の基本は公正証書の場合と変わりません。①債務名義②執行文③送達証明書の3つが必要となる点ではどの離婚の方法も差異はありません。それでは、どういった点において、公正証書による養育費回収との違いがあるのでしょうか。
公正証書による強制執行との違い
まず、協議離婚でない方法で離婚した場合、つまり裁判所(調停委員)を間に挟んで離婚の話し合いをして離婚した場合、その話し合いの結果をまとめた文書として、調書というものが作成されます。裁判上の和解で離婚した場合は和解調書、調停での話し合いで離婚した場合は調停調書というような形でそれぞれ名称が定められています。そして、この調書が公正証書と同じく債務名義としての性質を持つことになります。
もっとも、公正証書と違うのは、和解調書や調停調書の場合執行文を用意しなくてもいい点です。公正証書の場合は、強制執行認諾文言(執行文のこと)というものを加えた上で作成しなければいけませんでしたが、それが必要でないという点で、和解調書も調停調書も強制執行をするに適したものといえます。
他方で、裁判所の判決で離婚が言い渡された場合、判決文というものが作成され、それが債務名義になるのですが、判決文の場合はそのままの状態では執行文はついてきません。そのため、強制執行をする場合は、執行文付与の申立というものを担当の裁判所でしてもらうことになります。この場合の担当の裁判所は地方裁判所が多いですが、具体的にどの地方裁判所で申立をすればよいかは、判決を出してくれた裁判所に尋ねることで簡単に把握できますし、費用も印紙代300円と手頃ですので、この執行文付与申立の手続きが大きな負担になるということはありません。
そして、送達証明書をもらうために送達を申請する場所についても、違いがあります。和解調書、調停調書、判決文、これらを債務名義としたうえで、送達の申請をする場合は、それぞれの文書を作成した裁判所に対して申請することになります。また、公正証書と違って交付送達という仕組みは使えないので、送達をする相手の住所をきちんと調べる必要があります。
このように、和解調書と調停調書は執行文はいらないが、判決文には執行文を申立して付けてもらう必要があることと、送達の申請をして送達証明書をもらう場所が、公証役場ではなく裁判所であることに違いがあります。
そして、和解調書と判決文は特に、財産開示手続というものを利用して相手に養育費の引当てとなる財産があるかわからなかった場合に、裁判所に呼び出して保有している財産について陳述させることができるため、養育費を回収するには最も効果的な債務名義ともいえます。
もっとも、いずれの債務名義についても取得するまでに時間や費用がかかったりするデメリット的な点、簡単に取得することができるメリット的な点がそれぞれあります。取得するまでに手間がかかる程、強制執行をする場合には強い力を発揮するものも多いですが、そもそも強制執行という手段は養育費を支払ってもらう為の手段として他に打つ手がなくなった場合の最終手段ですので、基本的には、強制執行しやすい債務名義よりも、取得しやすい公正証書等による債務名義の方が、扱いやすいものといえます。